コラム

その指導、本当に伝わっていますか?世代間で起こる“伝わらない”問題

作成者: SOGOソリューションズ|2026.04.20

【監修】 柴村 馨(しばむら かおる)氏
 医療コミュニケーション・センター、有限会社グレードアップ・ラボ  取締役・所長

【略歴】
2004年看護コミュニケーション・センター(有)グレードアップ・ラボ設立・副所長就任
2022年医療コミュニケーション・センター(有)グレードアップ・ラボ 取締役就任
病院協会・医師会・看護協会等で研修会講師
病院・介護施設等で管理者研修、新人研修、倫理研修、個人面談、管理者1on1 等担当
看護大学・看護専門学校にて、論理的思考法、倫理学講師

 

新入職員の受け入れ準備に悩む現場のリアル

  • 「最近の若いスタッフは、少し注意しただけですぐに辞めてしまう……」
  • 「言葉選びを間違えるとハラスメントと言われそうで、指導に戸惑う」
  • 「言われた業務はこなすけれど、自分から気付いて動いてくれない」
  • 「説明をしても、分かっているのかどうかの反応が薄く戸惑ってしまう」

春を迎え、新しいスタッフが現場に入ってくる時期。医療機関で新入職員の教育を担当する指導者や経営層は、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。

慢性的な人手不足が続く医療業界において、せっかく採用した新入職員の早期離職は、現場の士気低下や採用コストの観点からも避けたい事態です。時代背景や価値観の変化により、「先輩の背中を見て覚える」「厳しく指導されて育つ」といった、かつての教育スタイルはもはや通用しません。

 

現場のすれ違いをなくすコミュニケーション術

 指導者側が無意識に抱く「思い込み」を手放し、新入職員と信頼関係を築くための具体的なステップを見ていきます。

Z世代とコロナ禍の影響を正しく理解する

医療の現場でも度々話題に上がる世代間ギャップ。世代を理解する目的は「相手を決めつけるため」ではなく、「相手を理解して対応策を探すため」です。同じ世代でも個人差は大きく、特定の世代だからこうだと決めつけること自体がハラスメントになる恐れがあります。

現在、新入職員として医療現場に入ってくるのは、主に1996年から2012年頃に生まれた「Z世代」と呼ばれる若者たち。指導者側である団塊ジュニアなどとは、育ってきた社会環境が根本的に異なります。

例えば、ワークライフバランスに対する考え方です。仕事優先で家庭は後回しという価値観が主流だった時代から、Z世代の考え方では、仕事とプライベートを同等、あるいはプライベートを重視することが当たり前になっています。また、生まれた時からデジタル環境があるため、分からないことはすぐに検索して答えにたどり着く習慣があり、無駄な苦労を避け、タイムパフォーマンスや効率を重視する傾向があります。SNSが普及した環境で育ち、他者からの評価に敏感で、失敗して批判されることを極端に恐れます。 かつては「見て覚える」厳しい指導から始まり、やがてプリセプター制度へと変化してきましたが、今の世代は物心ついた頃から「ハラスメント」という言葉が日常にあり、それが防止されるべきものだと教育されて育ってきました。

さらに、彼らが学生時代に経験したコロナ禍の影響は見過ごせません。 今の新入職員たちは、最も多感でコミュニケーションを学ぶべき2019年末から2023年頃にかけて、大きな制限を受けてきました。授業はほぼリモートでクラスメイトとの雑談すらなく、食事は全員が前を向いて黙食。医療実習も大幅に制限され、現場の空気感や「先輩のちょっとした気遣い」を見る機会が奪われました。

対面でのコミュニケーション経験が圧倒的に不足している彼らに、いきなり「空気を読んで察して動きなさい」と求めるのは適切ではありません。この背景を指導者が知っているだけで、新入職員への眼差しは肯定的なものへと大きく変わるはずです。

ハラスメントと誤解されないための7つのマインドセット

「熱心に指導しているつもりなのにパワハラだと受け取られてしまう」。これは指導者にとって悩ましい問題です。

  • 「1回教えたよね。なんで覚えてないの?」
  • 「何でも聞けばいいと思わないで」
  • 「メモも取らないで、覚える気あるの?」

指導者が無意識に使ってしまいがちな言葉ですが、これらはすべて「この子はダメだ、やる気がない」という否定的な見方がベースになっています。ハラスメントと誤解されないためには、「自分が同じ言い方をされたら嫌な気持ちにならないか」と立ち止まる姿勢が欠かせません。「まだやっていないの?」ではなく、「(やろうとしているところだろうから)手伝いましょうか」と声をかけるだけで、相手への尊重が伝わります。

相手をしっかりサポートしていると伝わる、7つのマインドセットを紹介します。

① 思い込みを捨てる(決めつけない)

ネガティブな思い込みは相手を理解する最大の障壁です。「どうせやる気がない」と思って見ていると、相手の良い部分に気づけません。「この子なりによかれと思ってやっている理由があるはずだ」と、フラットな視点を持つことが第一歩です。

② 相手の違う側面を知ろうとする

失敗が続くと「仕事ができない人」とレッテルを貼りがちです。しかし、「意外とできている部分もあるのではないか」と意識して観察することで、本人も気づいていない強みを発見できます。

③ 現状を「OK」とする(承認から入る)

アドバイスは、「今のあなたはまだ出来ていない」というダメ出しの側面を持ちます。いきなりアドバイスをされると新人は守りに入り、言い訳をしたくなります。まずは「今あなたなりに一生懸命頑張っているね」と現状を認めます。現状を否定されると過去と現在に囚われてしまいますが、自分が認められていると安心できて初めて、新人は将来に向けた言葉を受け入れられます。

④ 面談の目的を間違えない

1on1面談の場で、「ここが足りない」と一方的に伝達していませんか。面談の第一の目的は、新人が自分の思いや考え、困りごとや本音を話すことです。指導者が伝えたいことは一番最後で構いません。相手の話を傾聴する姿勢が、心理的安全性を生み出します。

⑤ ネガティブな発言を否定せず一旦受け止める

「私、この仕事に向いていないと思います」と弱音を吐いた時、「そんなことないよ」と励ましてしまいがちです。しかしそれでは、本人は気持ちを分かってもらえなかったと心を閉ざします。「そう感じているんだね」と一旦受け止める。その上で、「私から見るとあの時の対応はすごく丁寧だったよ」と別の視点を提供します。また、人が思い直すのには時間がかかります。その場ですぐに「頑張ります」と言わせようとしない配慮も必要です。

⑥ 自己評価が高すぎる時の対応

「できます、分かっています」と過剰にアピールする新人は、「できないことがあってはならない」という強迫観念や恐怖心を持っています。指導者自身の失敗談を共有し、「最初から完璧にできる人はいない」と伝えます。失敗しても見捨てられないという安心感を与えつつ、自分でできると思うレベルと、他者から見て安心できるレベルは違うという事実を一緒にすり合わせます。

⑦ 期待値を相手に合わせる

「1回で覚えるべき」「メモを取るべき」というのは指導者側の思い込みの可能性があります。文字で覚えるのが得意な人もいれば、やって見せてもらう方が得意な人もいます。「なぜ分かってくれないのか」と苛立った時は、自分の期待値が高すぎないか、相手に合った方法を提供できているかを振り返ります。

医療安全を守るローコンテクストな指示出し

医療現場のコミュニケーション改善において即効性があり、医療安全の観点からも極めて求められるのがローコンテクストな伝え方です。

日本は言葉にしなくても前後の文脈やその場の空気から察することを美徳とする「ハイコンテクスト文化」が根付いている傾向があります。例えば、スタッフルームで先輩が「今日暑くない?」と言っただけで、後輩が「エアコンの温度を下げましょうか」と動くように、空気や言葉の裏を読むことが求められます。 対してローコンテクスト文化では、「少し暑いからエアコンの設定温度を下げてもらえる?」と言葉で明確に表現する責任が話し手側にあります。

対面経験が少なく失敗を恐れる世代に、察する文化を強要するとコミュニケーションエラーから必要な対応が遅れるなどのリスクを引き起こしかねません。医療現場でよくある曖昧な指示が、以下の言葉です。

「ちょっと、Aさんの様子見てきて」

ベテラン同士であれば、「Aさんは今日薬が変わったから副作用が出ていないか確認してこいという意味だ」と阿吽の呼吸で伝わるかもしれません。しかし、新人にとって様子を見るという言葉は曖昧すぎます。病室のドアからちらっと顔を見てそのまま帰ってくるかもしれず、結果として重大な体調変化を見落とす医療事故に繋がりかねません。

言葉で明確に表現し、理解させるスタイルへの転換が必要です。 「Aさんは今日から新しい睡眠薬に変わっているから、呼吸状態が安定しているか確認して、もし異状があればすぐに私に報告して」 何のために、何を、どうするのかを具体的に言語化します。

いちいち細かく言わないといけないのかと思うかもしれません。しかしこれを繰り返すことで、新人は「薬が変わった時はこういう視点で様子を見るのか」という経験値と応用力を蓄積していきます。明確な指示があれば、驚くほど的確に動くことができます。

また、近頃は、遅刻や欠勤連絡をメールで済ませようとする新人が一定数います。常識として電話をしてこいと怒りたくなる方もいるかもしれませんが、彼らは「電話は相手の時間を奪うから申し訳ない、空いた時間に見られるメールの方が合理的だ」という気遣いで行動しています。 ここで頭ごなしに怒るのではなく、なぜ電話が必要なのかという論理的な説明が必要です。「メールだと気づくのが遅れてシフト調整が迅速に組めないから、欠勤の時は必ず電話で連絡してね」というように、円滑にフォローし迅速に情報確認を行うという合理的な理由を提示すれば、彼らはスムーズに行動を改善してくれます。 

接遇はマニュアルではない。仕事観とプロ意識の伝え方

スキルやテクニックを習得することと同じくらい、その根幹となる、仕事観とプロ意識の醸成は重要です。 医療機関で働くということは、直接的な医療職であっても事務職や清掃スタッフであっても、「人の命と人生に関わる現場を支える社会に不可欠なインフラを担っている」点において全く同じです。この「自分たちの仕事が持つ意味」を新人の腹に落とし込むことが、すべての教育の土台となります。

新人のうちは業務スキルにおいてプロフェッショナルになることは不可能です。ここでは新人におけるプロ意識を、「プロとして学ぶこと」、つまり「分からないことは確実に質問し、確認すること」だと定義します。

先輩が忙しそうで話しかけづらいと遠慮して自己判断で動くことは、医療現場では患者さんの不利益に直結します。忙しそうでも、要点をまとめて気持ちよく質問する。それが、患者さんが納得のいく安全な医療を受けるために必要なプロとしての仕事です。 例えば、医師に患者さんからの質問を確認したら怒られたという場面。そこで心が折れて訊くことをやめてしまうのではなく、患者さんが納得のいく医療を受けるために必要な確認だったのなら、恐れずに質問し続ける。受けるべき注意はしてもらってプロになる覚悟を持つ。この意識を持たせることができれば、新人は理不尽な萎縮から解放されます。

言葉遣いや身だしなみといった接遇の指導も欠かせません。しかし「マニュアルで決まっているから」という理由だけで指導しても、今の新人は心から納得してくれません。接遇とは、人として相手を大切に思う気持ち、つまり「倫理観」を行動という形にしたものです。

患者さんと話す時に膝をついて目線を合わせるのはなぜか。上から見下ろすと患者さんが上を向くことになり首が疲れてしまうからです。相手にきつい思いをさせたくないと大切に思うからこそ、自然と目線を合わせる行動になります。

髪をしっかり束ねて乱れないようにするのはなぜか。ケアの最中に髪が落ちてきたり手で髪をかきあげたりしていては、安全で衛生的な医療を提供できないからです。患者さんの安心のためにここにいるという役割意識を持った、機能的な身だしなみです。

なぜその行動が必要なのかという仕事の意味に立ち返って指導することで、新人はルールに縛られるのではなく、自らの意思と誇りを持って接遇を実践できるようになります。納得を重んじる世代にとって、このアプローチは極めて有効です。 

まとめ:指導者自身が心に余裕を持つことが最高の新人教育

新人指導はエネルギーを使います。イライラしたり自分の指導力に自信を無くしたりすることもあります。しかし指導者自身が疲弊し、心に余裕がなくて倒れそうな状態では、新入職員も不安を感じ、助けを求めることができません。本当の意味で相手を大切にできる人は、まず自分自身を大切にできる人です。指導者自身が自分を労り、心身の健康を大切にすること。それがひいては新人を、そして患者さんを大切にすることに直結します。

相手のことを知ろうとする姿勢で、具体的に言語化し、存在を承認するアプローチを試みれば、新入職員は前向きな気持ちを取り戻し、組織の強力な戦力へと成長していくはずです。

 

【無料セミナーのご案内】さらに強い組織・選ばれる病院を作るために

新入職員の育成やスタッフの定着化は、病院経営において最も重要な柱の一つです。スタッフが定着し、質の高い医療サービスを提供し続けるためには、コミュニケーションスキルだけでなく、経営層による強固な組織づくりと戦略的な病院運営が不可欠です。

新入職員の理解とコミュニケーションが学べる無料セミナーは、下記よりお申込みください。

新入職員の理解とコミュニケーションセミナーはこちら