
診療所に従事する医師の平均年齢は60.1歳に達し、開業医の高齢化が顕著に表れています。
こうした状況の中、無床診療所の49.3%が将来の承継プランとして「閉院」を挙げています。しかし、閉院には公的機関への届け出などをはじめとする各種手続きや患者さん、職員への対応を短期間に行わなければならず、莫大な労力がかかります。
さらには、クリニックを閉院した後もカルテの保存義務は継続され、法的および金銭的な負担が続きます。
近年、増加傾向にある第三者承継(事業承継)は、譲渡する医師にとっては患者さんの診療やカルテ管理義務、職員雇用を引き継ぐことができる可能性があり、医療機器の廃棄費用や原状回復費用を抑え、営業権(のれん代)や創業者利益(リタイアメント資金)の獲得が期待できます。一方で譲受される医師は、患者さんや職員が定着している既存のクリニックを継承することでゼロから開業するリスクを避けるメリットからニーズが高まっており、医療業界において現実的な選択肢として定着しています。
本記事では、クリニック閉院に伴う負担を整理し、第三者承継という選択肢について詳しく解説します。
長年地域医療の最前線に立ち、患者さんの健康を守り続けてきた開業医にも、年齢や体力的な限界から自身の代での閉院を意識する時期が訪れます。いざ閉院に向けて動き出すと、廃業に伴う多額の費用や手続きの煩雑さに直面して頭を悩ませる先生は少なくありません。クリニックの閉院や廃業に伴う手続きや費用、患者さんへの対応といった現実について公的データで整理していくと、第三者への事業承継が精神的・金銭的リスクを遠ざけ、現実的な選択肢であることが見えてきます。
厚生労働省が公表した「令和6年(2024年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によれば、診療所に従事する医師の平均年齢は60.1歳に達しました。年齢階級別に見ても「60~69歳」が最多であり、開業医の高齢化が顕著に表れています。 かつては親から子へとクリニックが引き継がれる親族内承継が主流でしたが、現在では医師の子どもや親族がいないケースが増加。さらには子どもは医師だが経営の重圧を負わせたくない、勤務医としてのキャリアを尊重したいという理由から、親族内に後継者を見出せないクリニックが急増しています。後継者がいないという悩みは決してひとりのものではなく、日本の医療界全体が直面している構造的な課題です。
厚生労働省|令和6年(2024年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況を基に当社が作成
後継者がいない場合、自身の引退とともにクリニックを閉院し廃業する道が真っ先に頭に浮かびます。日本医師会総合政策研究機構による医業承継実態調査のワーキングペーパー(No.440)によると、無床診療所を経営する約半数(49.3%)が将来の承継プランとして「閉院」を挙げています。 自分の代で綺麗に終わらせたいという思いを抱くのは自然なこと。しかし長年地域に根差してきたクリニックの看板をおろすのは簡単なものではありません。その先には重い負担と責任が待ち受けています。
クリニックを閉院して廃業する場合、管轄の保健所をはじめとする公的機関へ遅滞なく届出を行う必要があります。
診療所廃止届:廃止後わずか10日以内に保健所へ提出
診療用エックス線装置廃止届:装置がある場合、同じく10日以内に提出 保険医療機関としての廃止届を厚生局へ提出
そのほか、生活保護法や難病予防法など各種指定医療機関の廃止手続きも各自治体の窓口へ個別に行う作業が発生します。日々の診療や残務整理に追われる中でこれらの手続きを極めて短期間に漏れなく完了させるには、多大な労力を要します。
麻薬施用者免許を持ち院内に麻薬を保管している場合は、さらに厳格な手続きが求められます。
厚生労働省の「麻薬の廃棄に係る事務処理について」の通知によれば、所有する麻薬の廃棄には事前の麻薬廃棄届の提出に加え、麻薬取締員など都道府県職員の立ち会いのもとでの厳重な廃棄作業が義務付けられています。
また、麻薬取扱者業務を廃止した場合は、廃止後15日以内に麻薬取扱者業務廃止届の提出と免許証の返納を行わなければなりません。
取り扱いを一つ間違えれば法令違反に問われる、非常にデリケートな作業です。
行政への手続き以上にこれまで地域を背負ってきた先生にとって最大の負担となるのは、通院中の患者さん一人ひとりに対する対応です。 閉院によって患者さんが医療難民となってしまう事態は避けなければなりません。
高血圧や糖尿病などの慢性疾患で定期的に通院している患者さん全員に対し、患者さんの状態に合わせた転院先を探し、診療情報提供書(紹介状)を作成する業務が発生します。
これまでの治療経過や投薬内容をまとめ、適切な後継医療機関へ引き継ぐ作業は、閉院準備において最も労力と時間を要する負担です。長年通ってくれた患者さんへの責任感から、夜遅くまで紹介状を書き続けることも少なくありません。
患者さんの転院手続きと並行して、苦楽を共にしてきた職員の処遇も決める必要があります。
閉院に伴って職員を解雇する場合、労働基準法に基づき解雇日の30日前までに解雇予告を行うのが原則です。もし30日未満で解雇する場合は、足りない日数分の「平均賃金」を解雇予告手当として支払う必要があります。
閉院の事実を職員や患者さんにどのタイミングで告知するかも頭を悩ませる問題。早すぎれば職員の離職や患者さんの不安を招き、遅すぎれば転院や再就職の準備が間に合いません。閉院前から対応すべき労務問題や患者対応が山積みとなるのが、閉院という選択が突きつける現実です。
無事に閉院の日を迎えたとしても、その責任がすべて終わるわけではありません。廃業後も長期間にわたり法的および金銭的な負担が重くのしかかります。 医療法人の解散や個人診療所の廃業後であっても、患者さんの診療記録を守る義務は継続します。
医師法第24条第2項では、診療録(カルテ)は完結の日から5年間保存することが義務付けられています。
保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条においても、療養の給付に関する記録は完結の日から3年間、診療録は5年間の保存が必須です。
紙カルテであれば、膨大なダンボール箱を自宅や貸倉庫で長期間保管しなければならず、保管スペースの確保と家賃という物理的および金銭的な負担が引退後の生活を圧迫し続けます。
電子カルテを導入しているクリニックの場合、保存のハードルはさらに高くなります。
厚生労働省が定める「診療録及び診療諸記録の電子媒体による保存に関するガイドライン」によれば、電子カルテを保存し続けるためには以下の3つの基準を常に満たさなければなりません。
真正性の確保:故意や過失による虚偽入力や書換え、消去を防止すること
見読性の確保:必要に応じて直ちに書面に表示でき肉眼で読める状態にすること
保存性の確保:法令で定められた期間内に復元可能な状態で保存すること
これらを維持するためには閉院後であってもシステムを稼働し続け、保守費用やセキュリティ対策費用を払い続けるシステム管理コストが生じます。
収入が途絶えたにもかかわらずランニングコストだけが流出していくのは、金銭的にも精神的にも大きな痛手です。
クリニックの閉院や廃業には手続きの労力や紹介状作成の重圧、カルテなどの長期保存義務といった莫大なコストとリスクが伴います。
これらの重い負担から解放される選択肢として近年注目を集めているのが、自身のクリニックを他の医師や医療法人に譲渡する第三者承継(事業承継)です。
最大の利点は、施設や設備だけでなく通院中の患者さんの診療やカルテの管理義務を後任の医師へそのまま引き継ぐことができること。紹介状を何百通も書く作業がなくなり、カルテの保存コストや医療機器の廃棄費用、スケルトン戻しなどの原状回復費用を大幅に抑えられます。
職員の雇用についても、医療法人ごと継承する場合は原則としてそのまま継続されます。個人立クリニックの事業譲渡の場合は、一度雇用契約が終了し新体制で再契約を結ぶ流れとなりますが、即戦力となる職員の残留を希望する譲受医師は多く、交渉次第でこれまでの職員の雇用を引き継げる可能性が十分にあります。長年支えてくれた職員の雇用を守る意味でも第三者承継は有効な選択肢です。
かつてはクリニックを第三者へ譲ることに抵抗を感じる経営者も少なくありませんでしたが、現在ではその意識は大きく変化しています。日医総研の調査によれば、医療機関の現経営者のうち38.2%が親族以外の第三者個人への承継を将来の選択肢として考え、22.2%が他の医療機関等への事業承継(事業売却・M&A)を検討しているデータがあります。
若い世代の医師ほどゼロから開業するリスクを避け、患者さんや職員が定着している既存のクリニックを継承して開業したいというニーズが高まっており、医療業界において第三者承継はすでに現実的な選択肢として定着しています。
中小企業庁のデータによれば、休廃業や解散をする企業の半数以上(51.1%など)が黒字の状態で事業を畳む「黒字廃業」の現状があります。クリニックにおいても同様で、多くの患者さんに支持され、しっかりと利益を出しているにもかかわらず、後継者がいないという理由だけで廃業してしまうのは地域社会にとっても大きな損失です。 第三者へ事業承継を行うことで、長年築き上げた地域での信頼や患者基盤が「営業権(のれん代)」として正当に評価されます。廃業して多額の費用を払う事態を避け、クリニックの価値が損なわれないうちに譲渡することで、引退後の生活を豊かにする創業者利益(リタイアメント資金)を獲得できます。
医業承継は一般的な企業のM&Aとは異なり、医療法や行政手続きなど特有の専門知識が求められます。日医総研の調査でも、承継プランの相談先として顧問税理士や医師会に次いで、民間の医業コンサルタント(19.1%)やM&A仲介の専門事業者(9.7%)が挙げられています。 自力で後継者を探し、譲渡価額の交渉や複雑な契約手続きを行うのは至難の業です。
広範な医師ネットワークを持つ専門事業者を活用すれば、診療理念や地域医療への想いを共有できる医師への引き継ぎからデリケートな条件交渉、行政や税務手続きのサポートまでを一任できます。
「出資持分あり」の医療法人を経営している場合、承継時の足かせとなるのが、長年の経営努力によって膨れ上がった出資持分の評価額に対する多額の相続税や贈与税です。
この課題を解決する制度として、国税庁および厚生労働省が設けている認定医療法人制度があります。一定の要件を満たす移行計画を策定し、厚生労働大臣の認定を受けて「持分なし医療法人」へ移行すれば、出資持分の放棄に伴う贈与税や相続税の納税が猶予および免除されます。
この特例措置は令和8年(2026年)12月31日までの期限が設けられており、厚生労働省から期間延長の要望は出されているものの、制度を確実に活用するためには早めの決断と準備が求められます。
クリニックの閉院や廃業リスクを回避して理想的な事業承継を実現するには、医療業界に精通したパートナー選びが鍵を握ります。
総合メディカルは、医業継承を通じて地域医療を未来へつなぐサポートを行っています。 1987年の事業開始以来、35年以上にわたり750件以上の医業継承を支援してきました。中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」を遵守し、公正かつ誠実な支援を実施。
第三者医業継承支援事業は地域医療の存続と活性化に大きく貢献したことが評価され、第2回日本サービス大賞において「地方創生大臣賞」を受賞しています。
全国12万人以上の医師登録データベースを活用したマッチング力を強みとしています。条件面を合わせるだけでなく、長年大切にされてきたクリニックの理念や診療方針を深く理解し、それをしっかりと引き継ぐ後継者を見つけ出します。クリニックの資産や営業権の適正な価値評価から、複雑な行政手続き、患者さんや職員への配慮を含めたスケジューリングまで、専門コンサルタントが伴走して支援します。
兵庫県で28年間にわたり地域医療を支えてきた増田内科医院様は、家族に後継者がおらず、年齢や体調面を考慮し、患者さんや関係者に迷惑をかける前に継承したいと相談に訪れました。 そこで継承完了までのスケジュールと費用の予測を明確に提示し、不安を払拭。医師ネットワークを活用して医療への想いを共有できる後継者へ計画的に継承を進めました。段階的な引き継ぎ期間を設けたことで患者さんや職員の不安を最小限に抑え、28年続く医院の歴史と職員の雇用継続を実現しています。
神戸市の深堀呼吸器科・内科クリニック様は、自身の診療レベルが低下する前に後進に道を譲ることを検討していましたが、呼吸器内科という専門医が少ない分野であったため、自力での後継者探しは困難を極めていました。
相談を受けて総合メディカルの広域ネットワークを活用した結果、依頼からわずか2ヶ月という短期間で後任候補が見つかりました。税務面での複雑な課題に対するアドバイスや条件交渉のサポートにより、「専門医から専門医へ」の確実な継承が完了し、地域の高度な専門医療体制の維持に成功しています。
クリニックの閉院や廃業は手続きが煩雑であり、カルテの保存義務や機器の廃棄費用など、引退後も続く金銭的および精神的負担が大きくのしかかります。
「後継者がいないから閉院するしかない」と諦める前に、自身のクリニックが持つ無形資産の価値(営業権)を把握し、患者さんや職員を守りながら創業者利益を得られる第三者への事業承継を検討する道があります。
総合メディカルでは、長年培ったノウハウと全国の医師ネットワークを駆使し、引退後の生活と地域医療の継続を支援します。迷いや悩みがあれば、まずは一度ご相談いただき、現状の価値を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
SOGOソリューションズ編集部
SOGOソリューションズは、総合メディカル株式会社が提供する医療機関向けのサービスです。当コラムでは、医療現場の知見を活かし、病院経営に役立つ実践的なノウハウや最新情報をお届けします。
引退をお考えの開業医の方へ
『開業医リタイアの手引き』
リタイア後の未来について、考えたことはありますか?
上手にリタイアし、その後の人生を豊かで充実したものにするためには、早めに考えを深めることが重要です。
リタイアについて漠然と考えている方にぜひ活用いただきたい資料です。
© SOGO MEDICAL CO., LTD. All Rights Reserved.