コラム
病院の収益改善とコスト削減を実現する具体的施策とは?
公開日:2025/12/10
更新日:2025/12/11
病院の経営において「収益改善」や「コスト削減」は、常に最優先で取り組むべき経営課題ではないでしょうか。しかし、日々の診療や運営業務に追われる中で、どこから手をつければ良いのか、抜本的な対策を打つのは容易ではありません。
最新の「令和6年病院経営実態調査」によると、調査対象病院の実に8割以上が赤字という厳しいデータが報告されています。これは、もはや一部の病院が抱える個別の問題ではなく、多くの病院が共通して直面している深刻な状況を示しています。人件費や委託費などの費用は社会情勢を反映して増加し続ける一方で、診療報酬や薬価などの改定数年ごとの診療報酬改定への対応や、地域における患者数の確保など、収益面の課題はますます複雑化しています。
「コストを切り詰める努力はしているが、限界を感じている」
「収益を伸ばすための、次の一手が見つからない」
本記事では、強い問題意識をお持ちの病院経営者や事務長、経営企画担当の方々に向けて、この厳しい状況を乗り越えるための具体的な施策を「コスト削減」と「収益改善」の両面から徹底的に解説します。データに基づいた客観的な視点で自院の経営を見つめ直し、持続可能な病院経営を実現するための一歩を共に踏み出しましょう。
目次
多くの病院が赤字経営という厳しい現実
多くの病院経営者が直面している「経営の苦境」は、日本の医療業界全体が抱える構造的な課題を示しています。この厳しい現状とその背景を、まずは客観的なデータに基づいて深掘りしていきましょう。
令和6年病院経営実態調査から見る日本の病院経営
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会が合同で公表した「令和6年病院経営実態調査」は、現在の病院経営の厳しさを明確に示しています。この調査結果によれば、医業利益が赤字の病院は全体の83.1%に達し、前年度の78.9%からさらに4.2ポイント悪化していることが明らかになりました。
この数値は、病院が本来の事業である診療活動だけでは利益を確保することが極めて困難になっているという現実を突きつけています。一部の特殊な事情を抱える病院だけの話ではなく、大多数の病院が同じように赤字という課題に直面しているのです。
なぜ病院経営は悪化するのか?コスト構造の変化
では、なぜこれほどまでに多くの病院経営が悪化しているのでしょうか。その根底にある大きな要因の一つが、病院のコスト構造そのものの変化です。
特に、職員の人件費や、清掃・検査といった業務の委託費、そして高度な医療機器を維持するための設備関係費は、依然として増加傾向にあります。これは、医療人材の確保・定着のための待遇改善、専門業務のアウトソーシング化の流れ、そして医療の高度化に伴う必然的なコスト増であり、医療の質を維持・向上させるためには避けられない支出といえます。
物価高騰の影響を受けている医薬品費や診療材料費についても、各病院が現場レベルで懸命なコストコントロールの努力を続けています。しかし、その努力だけでは、人件費をはじめとする固定費の上昇分を吸収しきれず、結果として経営を圧迫しているのが実情です。つまり、従来の物品購入費を切り詰めるような単純な経費削減だけでは、もはや経営改善は望めない段階に来ています。
病院経営改善で取り組むべき2つの軸
深刻化する経営課題を前に、八方塞がりに感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、複雑に見える病院経営の改善も、その打ち手を整理すれば、大きく2つの軸に集約されます。それは「コスト構造の最適化」と「医業収益の最大化」です。この両輪をいかにバランス良く、そして力強く回していくかが、持続可能な経営基盤を築くための鍵となります。

コスト構造の最適化と業務効率化
1つ目の軸は、支出、すなわちコストのあり方を見直すアプローチです。ただし、前述の通り、医薬品や材料費をただ削るといった従来型のコストカットには限界があります。これからの時代に求められるのは、単なる「節約」から一歩進んだ「コスト構造の最適化」という視点です。
これは、業務プロセス全体を俯瞰し、非効率な部分を徹底的に洗い出すことから始まります。例えば、医薬品や診療材料の調達を考えてみましょう。従来の「節約」が、個別の仕入れ先との価格交渉を指すのに対し、「コスト構造の最適化」とは、医薬品共同購買(GPO)に参加して調達プロセス自体を抜本的に見直すようなアプローチを指します。
多くの病院が参加するスケールメリットを活かすことで、個々の病院では実現不可能なレベルまで仕入れ価格の構造自体を引き下げることが可能になります。
このように、一時的な値下げ交渉ではなく、コストが発生する仕組みそのものに戦略的に介入することが、未来の経営基盤を強固にする「戦略的な投資」としてのコスト最適化です。
ITシステムを導入してデジタル化をし、煩雑な事務作業を自動化したり、院内の情報伝達フローを改善して全体の工数を削減していきます。こうした取り組みは、時間外労働の削減といった直接的な人件費抑制に繋がるだけでなく、職員が本来の専門業務に集中できる時間を生み出します。結果として医療サービスの質が向上し、患者満足度が高まるという副次的な効果も期待できます。これは、未来への価値を生み出す「戦略的な投資」としてのコスト最適化です。
医業収益の最大化
2つ目の軸は、収入、すなわち医業収益を増やす「攻め」のアプローチです。どれだけコスト削減に努めても、事業の根幹である医業収益が先細りしてしまっては、経営は安定しません。
医業収益を最大化するためには、「患者数を増やす(集患)」と「患者一人あたりの単価を上げる(単価向上)」という2つの視点からの戦略が不可欠になります。コスト削減と並行して、収益の柱そのものをより太く、強固にしていく戦略が欠かせないです。
明日からできる病院のコスト削減アイデア4選
コスト構造の最適化は、大掛かりな改革だけを指すわけではありません。ここでは、比較的すぐに着手でき、着実な成果が期待できる具体的なコスト削減のアイデアを4つご紹介します。

① インフラコストの契約見直しと補助金活用
電気やガスといったインフラコストは、固定費として見過ごされがちですが、契約内容を見直すだけで年間数十万〜数百万円の削減に繋がる可能性があります。特に2016年の電力自由化以降、多様な料金プランが提供されています。専門のコンサルタントによるエネルギー診断を受け、院内の電力使用量のピーク時間帯や季節変動を正確に把握し、自院の利用実態に最適なプランへ変更することを検討しましょう。
また、空調設備や給湯器、照明などを省エネ性能の高いものに更新する際には、国や地方自治体が提供する補助金制度を積極的に活用することをおすすめします。これにより、初期投資を大幅に抑えつつ、長期的なランニングコストの削減を実現できます。
② 委託業務の契約内容の精査
清掃、警備、給食、医療事務、リネンサプライ、検査など、多くの業務が外部業者に委託されています。これらの委託費は、一度契約すると見直す機会が少ないかもしれませんが、定期的な契約内容の精査は必須です。
まずは現在の契約書を詳細に確認し、サービス内容が過剰でないか、あるいは現状のニーズと乖離していないかを検証します。その上で、複数の業者から相見積もりを取り、価格の妥当性を客観的に評価することが重要です。特に、長年同じ業者と契約している場合は、知らず知らずのうちに市場価格よりも割高な料金を支払っているケースも散見されます。業務の質を維持、あるいは向上させながらコストを適正化することが目標です。
③ 医薬品・診療材料の在庫管理徹底
医薬品や診療材料の在庫は、少なすぎれば診療に支障をきたし、多すぎればキャッシュフローを圧迫し、期限切れによる廃棄ロスを生む、デリケートな管理が求められる項目です。この課題を解決する鍵が、在庫管理の徹底とプロセスの標準化です。
勘や経験に頼った発注から脱却し、SPD(院内物品管理システム)のようなITシステムを導入することで、各部署での使用状況がリアルタイムで可視化されます。これにより、常に適正な在庫量を維持し、発注業務の自動化も可能になります。在庫の適正化は、廃棄ロスの削減とキャッシュフロー改善に直接貢献します。
④ ITツール導入による業務効率化
受付や会計、病棟での情報共有といった事務作業は、ITツールの導入によって効率化できる可能性があります。
ただし、これらのツールの導入・運用には当然ながら初期費用やランニングコストが発生します。期待される「事務スタッフの残業代抑制」といった定量的な効果や、「職員の業務負担軽減による離職率低下」といった定性的な効果が、導入にかかるトータルコストを上回らなければ、真のコスト削減には繋がりません。
導入を検討する際は、まず自院の業務プロセスを詳細に分析し、どの程度の効果が見込めるのかを定量的・定性的にしっかり検証した上で、費用対効果を見極めてから導入に踏み切る判断が求められます。
病院の収益を最大化させる具体的な施策4選
コスト削減努力と並行して、収益の最大化に向けた施策を力強く推進することが、経営安定化には不可欠です。ここでは、多くの病院で応用可能な収益改善の具体的な施策を4つの視点から解説します。
① 病床管理の徹底による稼働率向上
病院収益の根幹をなす入院診療収益は、単なる「病床稼働率」という数字だけではなく、「ベッドごとの収益性」まで踏み込んで管理することが不可欠です。
例えば、差額ベッド代が設定されている個室が、十分に稼働しているか。現場の判断で安易な減免が常態化していないか、あるいは「個室は埋まらないもの」として空いた状態を放置していないでしょうか。まずは、ベッドごとの収益データを可視化し、収益を生まないベッド(=空床、不適切な減免)の原因を特定・分析することが、「病棟運営」を見直す第一歩となります。
その上で、入退院支援プロセスの強化を実行します。これは、退院日が近づいてから慌てて調整を始めることではありません。医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師が、患者の入院決定とほぼ同時に介入し、入院初期から退院後の生活を見据えた支援計画を立案・共有することが鍵となります。
また、地域医療連携の深化も、単なる「顔の見える関係」から一歩進める必要があります。地域のクリニックや介護施設と、紹介・逆紹介のデータを定期的に共有・分析し、「どの医療機関から、どのような患者が紹介されているか」「今、どの転院先施設に空きがあるか」といった情報をリアルタイムで管理・把握する体制を構築することが、安定的な患者受け入れとスムーズな病床回転を実現する具体的な戦略です。
② データ分析に基づく診療単価の向上
日々の診療から生まれるレセプト(診療報酬明細書)データやDPC(診断群分類包括評価)データは、収益改善のヒントがあります。これらのデータを専門的に分析・活用することで、患者一人あたりの診療単価の向上を図ることが可能です。
多くの病院で課題となっているのが、算定漏れや不適切な病名コーディングです。医師や事務スタッフの多忙さから、本来算定できるはずの手術や処置の項目が漏れていたり、診断群分類が実態よりも低く評価される病名になっていたりするケースは少なくありません。レセプトチェックシステムを導入したり、コーディングの精度を高めるための医師向け勉強会を開催したりすることで、請求の精度を向上させ、失っていた収益を適正に回収することができます。
③ 外来機能の強化と集患対策
診療所とは異なり、病院の外来機能、特に専門外来や高度医療機器を用いた検査は、地域のクリニックからの紹介によって成り立っています。この紹介ルート強固にし、より多く持つことが、外来収益の安定化に直結します。 単に挨拶回りをするだけでなく、地域のクリニックが「紹介しやすい」と感じる仕組みを構築することが重要です。例えば、専用の紹介予約ポータルの整備、紹介患者様の待ち時間短縮、検査結果の迅速かつ丁寧なフィードバック体制などを整え、紹介元クリニックの信頼を獲得・維持する取り組みが不可欠です。
④ 検査・オペ室の回転率向上
新たな患者様を増やすと同時に、収益に直結する検査やオペ室の稼働率を見直すことも極めて重要です。 例えば、MRIやCTといった検査の予約枠に、無駄な「空き時間」は発生していないでしょうか。オペ室のスケジュールは最適化され、目標とする回転率を維持できているでしょうか。これらの高額資産のアイドルタイムを最小化し、稼働率を向上させることが、設備投資をせずとも外来・手術部門の収益を直接的に引き上げる、最も効果的な施策の一つとなります。
専門家の知見やノウハウを活用することが、改善の近道に
ここまで、コスト削減と収益改善のための多岐にわたる施策をご紹介してきました。しかし、これらの施策を日々の業務と並行しながら、計画的に、そして効果的に推進していくのは決して簡単なことではありません。専門的な知見やノウハウ、そして客観的な視点を持つ外部パートナーの活用が、改革を成功へと導くための最短ルートとなる場合があります。
なぜ専門家の活用が近道なのか?
院内の人材だけで改革を進めようとすると、どうしてもいくつかの壁に直面しがちです。
- 時間とリソースの制約:事務長や経営企画担当者は、日々の膨大な業務に追われ、経営改善という重要課題に集中して取り組む時間を確保するのが難しい。
- 専門知識とノウハウの不足:診療報酬制度の複雑な解釈や、各種コストの適正価格の把握など、高度に専門的な知識がなければ最適な判断が下せない場面が多い。
- 内部の慣習という壁:長年の慣習や部署間の力関係が障壁となり、「本当は非効率だと分かっているが変えられない」といった抜本的な業務プロセスの見直しが進まない。
こうした内部だけでは解決が難しい課題に対し、専門コンサルタントは、数多くの病院を支援してきた経験と客観的な第三者の視点から、課題の本質を的確に捉え、実効性の高い解決策を提示することができます。
本記事では、多くの病院が直面している赤字経営という厳しい現実を踏まえ、持続可能な経営基盤を確立するための具体的な施策を「コスト削減」と「収益改善」という2つの重要な軸から解説しました。
これらの施策は、一つひとつが経営改善に繋がる重要なアクションプランです。しかし、最も大切なことは、まず自院の現状をデータに基づいて客観的に把握し、どこに最も大きな課題があるのかを特定することから始まります。
もし、貴院の経営改善に行き詰まりを感じていたり、次の一手を模索していたりするのであれば、一度、外部の専門家の視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。客観的な分析に基づいた的確な戦略が、現状を打破し、未来を切り拓くための力強い推進力となるはずです。
医薬品共同購買(GPO)
全国展開する調剤薬局のスケールメリットを活かした価格交渉により、医薬品調達コストを適正化。


