コラム
病院M&Aを成功に導くには?手続きの流れと重要ポイントを解説
公開日:2025/12/22
後継者不足や厳しい経営環境、そして国が主導する地域医療構想と病床機能の再編。これらの大きな変化の波の中で、病院の存続と持続的な発展のための経営戦略として「M&A」への関心が高まっています。かつては「身売り」といったネガティブなイメージを持たれがちでしたが、今や地域医療の継続、職員の雇用確保を実現し、未来を切り拓くための前向きな選択肢の一つとして広く認識され始めています。
しかし、病院のM&Aは、一般企業のそれとは一線を画す法規制や許認可といった特有の専門性が求められるため、「何から考えればよいのか?誰に相談すれば良いのか?」と悩む経営者の方も少なくありません。
本記事では、病院M&Aの基本的な知識から、売り手・買い手それぞれの立場で成功に不可欠となる重要ポイント、そして最も重要な信頼できるパートナーの選び方まで、医業継承・M&Aの専門家の視点で分かりやすく、そして深く解説します。
目次
なぜ今、病院のM&Aが増加しているのか?
近年、医療業界においてM&Aの件数が増加傾向にあります。これは一部の病院だけの特殊な動きではなく、多くの医療機関が共通して抱える課題、そしてそれを取り巻く外部環境の変化が背景にあります。M&Aは、もはや他人事ではなく、現代の病院経営における重要な選択肢の一つとなっているのです。
後継者不足と経営環境の悪化
病院M&Aを検討する最も大きな要因の一つが、深刻な後継者不足です。経営者である理事長・病院長の高齢化が進む一方で、子どもが医師であっても別の専門分野に進んでいたり、都市部の大規模病院に勤務していたりと、必ずしも親の病院を継承するとは限らないケースが増えています。親族内での承継が困難となり、M&Aによって第三者に病院の未来を託すという決断が現実的な選択肢となっています。
さらに、厳しい経営環境もM&Aを後押ししています。「令和6年病院経営実態調査」では8割以上の病院が赤字であると報告されており、診療報酬改定への対応、医療機器の高額化、そして人件費の高騰などが経営を圧迫しています。このような状況下で、単独での生き残りが困難と判断し、病院の存続と従業員の雇用維持の維持を図るため、M&Aを検討する動きが活発化しているのです。
地域医療構想と業界再編の動き
国が推進する「地域医療構想」も、病院M&Aの大きな潮流を生み出しています。この構想は、将来の人口動態を見据え、各地域に求められる医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)を明確にし、病床の機能分化と連携を進めることを目的としています。
この流れの中で、各病院は自院が地域で担うべき役割を明確にすることが求められます。例えば、急性期医療に特化する病院、リハビリテーションや在宅医療に注力する病院など、機能の再編や連携が不可欠です。M&Aは、こうした機能の集約や連携をスピーディーに進めるための極めて有効な手段となります。異なる機能を持つ病院同士がM&Aによって連携することで、地域内で切れ目のない医療を提供できる体制を構築し、業界再編の動きに主体的に対応していくことが可能になるのです。

【売り手・買い手別】病院M&Aのメリット
M&Aは、単に病院の経営権が移るというだけでなく、売り手、買い手、そして従業員や患者さん、地域社会といった多くのステークホルダーに影響を与えます。ここでは、それぞれの立場から見たメリットと、その実現手段となる代表的なM&Aの手法を解説します。

売り手側のメリット
長年守り続けてきた病院を第三者に譲渡することは、経営者にとって非常に大きな決断です。しかし、それは多くのメリットをもたらす前向きな戦略でもあります。
- 後継者問題の解決:最も直接的で大きなメリットです。親族や院内に適当な後継者がいなくても、理念に共感する第三者に経営を託すことで、病院を存続させることができます。
- 従業員の雇用維持:廃院となれば、長年尽くしてくれた従業員は職を失ってしまいます。M&Aにより、新たな経営者のもとで従業員の雇用を継続することが可能になります。
- 地域医療の継続:地域にとって不可欠な医療インフラである病院を存続させることは、患者さんと地域社会に対する大きな貢献です。
- 創業者利益の確保:創業者利益の確保:出資持分のある医療法人の場合、株式会社の株式売却とは仕組みが異なります。医療法人は「剰余金の配当」が禁止されているため、M&Aにおける創業者(出資者)の利益の受け取り方は、一般的に「役員退職金」と「出資持分の譲渡対価」の2つを組み合わせて設計されます。これにより、これまで築き上げてきた病院の価値を適正な対価として受け取り、引退後の生活資金となる創業者利益を確保することが可能になります。
- 経営の重圧からの解放:日々の資金繰りや人材確保、経営者保証、医療訴訟のリスクなど、理事長(法人の場合)・病院長(個人事業の場合)が一人で背負ってきた重圧から解放され、精神的な安定を得ることができます。
買い手側のメリット
一方で、病院を譲り受ける買い手側にとっても、M&Aは新規開設にはない多くの戦略的メリットを享受できます。
- 事業エリアの拡大と時間短縮:新たな地域にゼロから病院を建設する場合、土地の確保、病院建物の新築工事、行政手続き、職員採用など、膨大な時間とコストがかかります。M&Aは、すでに運営されている病院を引き継ぐことで、これらのプロセスを大幅に短縮し、迅速に事業エリアを拡大できる極めて効率的な手段です。
- 優秀な専門人材の確保:医師や看護師、専門技術を持つ医療スタッフなど、医療人材の採用競争が激化する中、M&Aは経験豊富な人材を一度に確保できる有効な方法です。
- スケールメリットによる経営効率化:医薬品や医療材料の共同購入によるコスト削減、本部機能の集約による管理コストの効率化、人事交流による組織活性化など、規模を拡大することによるスケールメリットを享受できます。
- 新たな診療領域への進出:自院にはない専門診療科や機能を持つ病院を引き継ぐことで、提供できる医療サービスの幅を広げ、多角化を図ることが可能になります。
【売り手編】後悔しないための最重要3ポイント
後継者不在や経営環境の厳しさからM&Aを検討することは、長年かけて築き上げてきた病院と従業員や患者さんを守り、未来へつなぐための重要な経営判断です。この章では、その決断を「成功」させ、後悔しないために必ず押さえておくべき最重要ポイントを3つに絞って解説します。
ポイント1:「想い」と「条件」の明確化でM&Aの軸を定める
まず最初に、そして最も時間をかけて行うべきは、「何のためにM&Aを行うのか」という目的と、交渉において「絶対に譲れない条件は何か」を明確に言語化することです。
「長年勤めてくれている職員の雇用は、何があっても守りたい」「地域の小児医療を灯し続けたい」「自分の引退後も、病院の名前は残してほしい」といった、経営者としての強い「想い」が、M&Aの交渉過程で判断に迷った際のブレない指針となります。
また、希望する譲渡価格はもちろんのこと、従業員の処遇(給与水準や役職の維持)、院長自身の引退後の関わり方(非常勤医師として週数日勤務するなど)といった具体的な「条件」をリストアップし、優先順位をつけておくことが、交渉をスムーズに進める上で不可欠です。この軸が定まっていないと、目先の金額や条件に惑わされ、本来の目的を見失った後悔の残る決断につながりかねません。
ポイント2:タイミングの見極めで有利な交渉を進める
M&Aを成功させる上で、「いつ検討を始めるか」というタイミングの見極めは極めて重要です。多くの経営者が陥りがちなのが、経営状態が完全に悪化し、資金繰りにも窮するようになってから、慌ててM&Aを検討し始めるケースです。
しかし、最も有利な条件で交渉を進め、多くの選択肢の中から自院の理念に合う相手先を選ぶためには、経営にまだ余力のある段階で検討を開始することが必要です。財務状況が健全であればあるほど、自院の価値は高く評価され、買い手候補も多く現れます。
タイミングを決める要因は、財務状況だけではありません。経営者ご自身の年齢や健康状態といったライフプラン、後継者候補の最終的な意思、そして地域医療における競合の動向や診療報酬改定といった外部環境の変化など、複合的な要素を考慮して総合的に判断する必要があります。「あと数年は頑張れる」と考えるそのタイミングこそが、実はM&Aを検討し始める適期である可能性が高いのです。
ポイント3:専門家との連携で孤独な決断を成功に導く
病院のM&Aは、医療法や許認可の引継ぎ、出資持分の評価、地域医療構想との整合性など、一般企業のM&Aにはない特有の論点が多く、極めて専門性が高い領域です。これらの複雑なプロセスを、多忙な院長が日々の診療と並行しながら、たった一人の力で進めるのは現実的に不可能です。
自院の価値を客観的かつ適正に評価し、ポイント1で明確化した「想い」や理念をしっかりと汲み取ってくれる、医療業界のM&Aに精通した専門家を早期にパートナーとすることが、成功の最大の鍵となります。優れた専門家は、最適な相手先を見つけるだけでなく、交渉の進め方、従業員への情報開示のタイミングといったデリケートな問題についても適切な助言を与え、経営者の孤独な決断を力強く支えてくれます。
【買い手編】戦略的成功を実現する最重要3ポイント
病院M&Aは、事業エリアの拡大や専門機能の強化をスピーディーに実現できる、極めて有効な成長戦略です。しかしその一方で、統合がうまくいかず期待したシナジーを創出できないなど、大きなリスクを伴うのも事実です。この章では、M&Aを成功させ、自院の成長を確実なものにするために、買い手側が必ず実行すべき最重要ポイントを3つに絞って解説します。
ポイント1:戦略の明確化と徹底的なリスクの洗い出し
まず重要なのは、「なぜこの病院を引き継ぐのか」というM&A戦略上の目的を明確にすることです。「近隣だから」「売りに出ているから」といった安易な理由ではなく、「自院に不足している回復期リハビリ病棟の機能を得るため」「〇〇エリアの在宅医療の拠点を確保するため」といった、自院の経営戦略に基づいた明確な目的を持つことが、M&Aの成功の出発点です。
その上で、買収監査を通じて、対象となる病院の潜在的リスクを徹底的に洗い出すことが失敗を避けるための絶対条件です。財務・法務といった基本的な項目はもちろんのこと、病院M&Aでは特に、未払い残業代の有無や職員との間のトラブルといった人事労務リスク、許認可や施設基準が適正に維持されているかといった行政リスクなどを、専門家を交えて深く精査する必要があります。
ポイント2:M&A後の統合計画(PMI)を契約前に描く
M&Aの成否は、契約後、いかにスムーズに組織を統合できるかという「PMI(Post Merger Integration)」にかかっていると言っても過言ではありません。特に、長年異なる歴史を歩んできた病院同士の組織文化の融合は、最大の難関です。
期待したシナジーを確実に生み出すためには、条件交渉と並行して、具体的なPMI計画を契約前に策定しておくことが極めて重要です。両院の理念のすり合わせ、人事評価制度や給与体系の調整、電子カルテをはじめとする情報システムの統合計画、そして職員の不安を払拭するためのコミュニケーションプランなど、統合後の姿を具体的に描き、その実現プロセスを詳細に設計しておくことが、M&Aの成功確率を飛躍的に高めます。
ポイント3:キーパーソンとの関係構築と円滑なコミュニケーション
M&A後の安定経営は、現場を支える院長や看護部長、事務長といったキーパーソンの協力なくしてはありえません。彼らがM&Aに反発し、退職してしまうような事態になれば、多くの職員や患者さんが離れてしまい、M&A後の価値そのものが毀損されてしまいます。
一方的なM&Aという姿勢ではなく、相手の病院がこれまで築き上げてきた歴史や文化に最大限の敬意を払い、トップ同士が膝詰めで対話を重ね、強固な信頼関係を構築することが何よりも重要です。その真摯な姿勢が、従業員や患者さんの安心につながり、地域社会からの理解を得て、円滑な事業承継を実現させるのです。
病院M&Aの相談なら総合メディカルへ
ここまで解説してきたように、病院M&Aを成功させるためには、売り手・買い手双方の立場において、高度な専門知識と豊富な経験が不可欠です。そして、そのプロセス全体をナビゲートする専門家の選定こそが、M&Aの成否を分ける最も重要な要素となります。

なぜ病院M&Aには専門のパートナーが必要なのか
医療法人のM&Aは、一般企業のM&Aとは全く異なる特殊性を持ちます。
- 非営利性の原則:医療法人は原則として非営利であり、剰余金の配当が禁止されています。これは、M&Aの対価の受け取り方(例:役員退職金との組み合わせ)やスキームの設計に大きな影響を与えます。
- 特殊な企業価値評価:また、病院の価値は単純な収益性だけでは測れません。一般企業とは異なり、病床の許認可、地域医療構想における立ち位置、専門性の高い医療スタッフの存在といった**「目に見えない無形の価値」**も評価の対象となるため、その算定方法は非常に専門的かつ特殊です。
- 複雑な許認可:病院の開設許可や保険医療機関の指定など、行政からの許認可が事業の根幹であり、その引継ぎには細心の注意が必要です。
- 出資持分の問題:持分あり医療法人と持分なし医療法人では、M&Aの手法や税務上の扱いが大きく異なります。
- 地域医療への影響:一病院の動向が、地域全体の医療提供体制に大きな影響を与えるため、地域医療構想との整合性を考慮する必要があります。
これらの専門的かつ複雑な問題を乗り越えるためには、医療業界に特化した信頼できるアドバイザーの存在が不可欠なのです。
総合メディカルが選ばれる理由
総合メディカルは、長年にわたり医業経営コンサルティングを手掛けてきた豊富な知見と、全国に広がる独自のネットワークを強みとしています。私たちが提供するのは、単なる売り手と買い手のマッチング(仲介)だけではありません。
私たちは、M&Aを病院の経営課題を解決するための一つの手段と捉え、財務分析から最適なスキームの提案、デューデリジェンスの実行支援、そして最も重要であるM&A後の経営戦略や組織統合(PMI)までを見据えた、一貫した伴走支援を提供します。それぞれの病院が持つ理念や文化を深く理解し、すべての関係者にとって最善の未来を実現することを目指します。
私たちは、M&Aを病院の経営課題を解決するための一つの手段と捉え、財務分析から最適なスキームの提案までを行います。
M&Aのプロセスで不可欠なデューデリジェンス(買収監査)につきましては、仲介者としての中立性を保ち、利益相反を避ける観点から、弊社が直接実行するのではなく、信頼できる外部の専門家をご紹介する形でサポートいたします。
そして、M&Aの成否を分けるM&A後に運営が円滑に進むことを見据え、なによりもそれぞれの病院が持つ理念や文化を深く理解し、すべての関係者にとって最善の未来を実現する最適なマッチングを目指します。
まずは専門家に無料相談から
M&Aに関する悩みや不安は、非常にデリケートであり、院内で相談できる相手も限られていることでしょう。しかし、一人で抱え込まずに、まずは守秘義務を遵守する専門家に相談することが、解決への第一歩です。
総合メディカルでは、M&Aを検討し始めたばかりの段階の経営者様からの無料相談を随時受け付けております。「自院の客観的な価値を知りたい」「漠然とした不安がある」といった初期段階のご相談でも全く問題ありません。まずは専門家との対話を通じて、自院の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。
病院M&A
最適なソリューションを提案し、総合的なサポートを通じて病院の「未来づくり」を支援いたします。

