コラム

医療機関経営におけるBCP対策、その重要性と策定のポイントとは?

公開日:2023/07/05

更新日:2023/07/27

医療機関経営におけるBCP対策、その重要性と策定のポイントとは?

自然災害や感染症のまん延など、万一の事態に備えるBCP対策が近年大きな注目を集めています。BCPの策定は民間企業や自治体などでは一般的になりつつありますが、医療機関ではどのように計画するべきなのでしょうか。その重要性や策定におけるポイントなどをまとめてご紹介します。

医療機関におけるBCP対策の重要性

BCPとは「事業継続計画(Business Continuity Plan)」の頭文字をとった略語で、地震、津波、洪水、土砂災害、噴火災害のような自然災害、また新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックなどの緊急事態が起こった場合でも、経営損害を最小限に抑えるための計画を意味します。

例えば一般企業の場合、一度大きな災害に見舞われてしまうと原材料の調達ラインがストップしたり、従業員が出社して業務に当たることが難しくなったりすることも珍しくありません。しかし、だからといって通常営業に戻るまでに時間を要し、いつまでも業務をストップしたままだと、顧客や取引先などに大きな影響を与え、社会的な信用を失うことになります。こうした事態を避けるため、緊急事態が起こっても早急に復旧し、事業をスムーズに継続させるために策定するのがBCPです。

一般企業においてBCP策定の目的は事業を守ることにありますが、医療機関ではその目的の方向性や重要性が少し異なります。言うまでもなく、たとえわずかな時間、期間であっても医療機能の停止は人命に関わる事態となります。そのため医療機関においては、突発的な自然災害や感染症のまん延など、予測できない事態が起こった場合であっても重要業務や医療機能が停止しないよう、また万一停止した場合はプライオリティの高い業務から優先して復旧できるよう、あらかじめ計画を立てておく必要があります。

特に、地震、津波、洪水などの自然災害が発生した際、医療機関は負傷者をできる限り受け入れて治療にあたらなければなりません。すでに通院中、入院中の患者に対する医療行為を止めないことはもちろん、非常時の混乱のなかで増加する医療需要に冷静に対応できるよう、あらかじめ体制・スキームを整え、作業方法や治療手順などを病院内で共有しておくことが重要です。

医療機関におけるBCP策定手順

医療機関におけるBCP策定は、事業の継続性を守るだけでなく、緊急事態においてひっ迫する医療需要に応え、人命を守るという役割を果たすためにも重要なものです。一般的に、医療機関におけるBCPの策定は以下のようなステップで行われます。

【ステップ1】BCP策定のための体制構築、現状確認

BCPに取り組むうえでは、まず計画を策定するための組織を構築する必要があります。医療機関におけるBCP策定には院内のあらゆるセクションの協力、連携が欠かせません。そのため、すべてのスタッフが当事者意識を持って取り組むためにも、BCP策定のメンバーは事務部門だけ、診療部門だけといった一部のスタッフのみを対象とするのではなく、病院全体から幅広く集めるのが望ましいと言えます。

BCP策定のための組織が構築できたら、現段階で災害に対してどの程度の備えがあるかを確認していきます。各部門から集めたメンバーが中心となり、指揮命令系統、非常時の人員確保、資材、ライフラインなどについて、現段階で備えができていること、できていないことを割り出していきます。

【ステップ2】リスク、事業影響度分析

このステップでは、自然災害発生時や感染症のまん延などの非常時に起こり得る被害を想定し、病院の運営にどういった影響があるかを分析していきます。特に自然災害に関しては内閣府の中央防災会議や各自治体が公開している被害想定が参考になります。こうした資料をもとに受け入れが必要となる傷病者数を想定し、電気やガス、上水道などのインフラ、建物や設備、そして職員にどういった被害が起こり得るか、復旧にはどの程度の時間が必要となるかを分析していきます。

【ステップ3】行動計画および事前対策を文書化

緊急事態における被害状況、復旧までの時間予測などの分析をもとに、実際の行動計画や事前対策を立てていきます。災害に伴い増加する傷病者にどう対応するか、その間の指揮命令系統や支援チーム、支援物資の受け入れなど災害特有の要因だけでなく、その間の入院患者のケア、緊急手術や人工透析など優先度の高い業務にどのように対応していくかを行動計画としてまとめ、文書化して関係者へ共有していきます。

【ステップ4】継続的改善

BCPは計画を立てればそれでいいというものではありません。策定後も随時見直しを行い、改善点がないかを検討していくことが重要です。また必要に応じてスタッフへの教育や訓練を行い、非常時への高い意識を維持していくことが、万一の事態への備えにもつながります。

BCP策定において考慮するべきポイント

医療機関におけるBCP策定は、一般企業におけるBCP策定とは異なる点も多く、医療機関特有の事情を踏まえて計画を立てることが重要です。医療機関におけるBCP策定において考慮するべきポイントには、以下のようなものがあります。

増加する医療需要への対応

一般企業におけるBCP策定の場合、災害発生時からしばらくは業務量を減らして早期復旧を目指すのも選択肢のひとつと言えます。しかし、医療機関の場合、自然災害や感染症のまん延などの非常時には、通常時と同等以上の医療需要が発生することが予想されます。災害により増加する傷病者の受け入れはもちろん、すでに入院中の患者さんに対するケア、緊急手術や人工透析といった優先度の高い業務など、増加する医療需要に対応できるだけの体制を計画する必要があります。

ライフライン対策

自然災害発生時は、水、ガス、電気などのライフラインが停止する可能性があることに留意する必要があります。医療機関においてこれらのライフラインが止まることは、患者の命に直結する事態となることは言うまでもありません。そのため、万一災害が発生した際も、こうしたライフラインを使用できるよう準備しておく必要があります。

特に電気については、医療機器に多くの電力が必要となることもあります。自家発電での供給可能量、ライフラインの復旧予測などを踏まえて、必要な量をより正確に把握しておくことが重要です。

指揮命令系統の確立

緊急事態の際は、院内のスタッフ全員を招集できるとは限りません。病院長など経営責任者のほか、各部門のリーダーが集まらないことも考えられます。また、特に地震、津波、洪水などの自然災害発生時にはDMAT(ディーマット:Disaster Medical Assistance Team、災害派遣医療チーム)や医療支援チームなどが参加し、普段とは異なるチームで診療業務にあたらなければならないこともあります。

こうした状況下で、できるだけ混乱を避けてスムーズに業務を進めるためには、決定権のある人をあらかじめ複数人決めておくことが重要です。緊急事態発生時には医療需要が増加するだけでなく、支援物資の受け入れやライフラインへの対応など、通常よりも状況が複雑になるケースも想定されます。こうした状況下でも診療業務をスムーズに進めるためには、事前に詳細な行動計画を立てるとともに、臨機応変に動けるような体制、指揮命令系統を確立することが重要です。

まとめ:非常時に適切な医療を提供するためには、事前の準備が必要不可欠

非常時であってもできる限り混乱を避け、適切な医療を提供できるかどうかは、事前にどれだけ準備ができているかにかかっています。医療機関におけるBCP策定は、事業の継続性を確保するだけではなく、患者の命を守り、非常時における地域医療を崩壊させないためにも必要不可欠なものと言えるでしょう。

総合メディカルでは、医療機関向けBCP策定支援を行っております。BCP策定をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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