コラム

AI問診で実現する医療現場の働き方改革

公開日:2024/02/16

更新日:2024/02/26

AI問診で実現する医療現場の働き方改革
Ubie株式会社 代表取締役 医師 阿部 吉倫氏

■阿部 吉倫(あべ よしのり)


2015年東京大学医学部医学科卒。東京大学医学部付属病院、東京都健康長寿医療センターで初期研修を修了。2017年5月にUbie株式会社を共同創業、医療の働き方改革を実現すべく、全国の医療機関向けにAIを使った問診システムの提供を始める。2019年12月より日本救急医学会救急AI研究活性化特別委員会委員。2020年 Forbes 30 Under 30 Asia Healthcare & Science部門選出。2023年より日本医療ベンチャー協会(JMVA)理事。

AI問診が誕生した理由

意外と多い、外来診療中の「医師の事務作業」

 2024年4月から、いよいよ医師にも「時間外労働の上限規制」が設けられます。全国の医療機関において「医師の業務効率化」は、喫緊の課題といっても過言ではありません。
 厚生労働省が平成28年に行った「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によると、いわゆる「ドクターストップ」となるほどの時間外労働をしている医師は、全体の40%を超えていました。年間の時間外労働時間が960時間、月間では80時間のラインを超えた医師です。1か月に20日間の勤務があるとすれば、1日あたりの時間府外労働は4時間ですから、医師からすれば「よくあること」なのかもしれません。しかし一般労働者は、この年間960時間が、いわゆるドクターストップや過労死ラインと呼ばれる、働きすぎとされる時間なのです。
 医師はなぜ、それほどまでの時間外労働を強いられているのでしょうか。厚生労働省の調査によると、医師の時間外労働の主な理由として挙げられるのが、救急搬送を含めた時間外診療が必要な患者への対応(64.8%)、所定の勤務時間内に対応しきれない長時間の手術や外来診療の延長(57.7%)があります。これに続くのがカルテ作成(55.6%)でした。


 そして、外来の患者数が増えるほど医師の勤務時間は長くなりますが、医師にはこれらの診療行為に対応しなければならない、とする「応召義務」があります。また、「求めに応じた質の高い医療を提供したい」という個々の職業意識の高さも、医師の時間外労働が長くなる原因でしょう。
 しかし考え方を変えれば、「応召義務」に直接的な関わりの少ない事務作業なら、他の職種へと移管する「タスク・シフティング」が可能になります。もちろんそれぞれの医療機関が担う役割にもよりますが、さまざまな分野でICT化が進む現在、特に事務作業が多く発生する外来業務においては、タスク・シフティングが重要な課題であると考えます。

医師の事務作業を効率化する「ユビーAI問診」

 我々は、医師の外来業務の中でもっとも時間を要すると思われる「問診の記録」に注目し、「ユビーAI問診」を開発しました。2018年に提供を開始したこのサービスは、パソコンやタブレット端末、患者自身のスマートフォンからも操作でき、取得した問診データを電子カルテにコピー&ペーストすることで、問診データ入力にかかる時間を削減できるサービスです。

 ユビーAI問診は、従来「紙で運用されていた問診票」を、デジタルデータに置き換えていきますが、そこにはAIの能力を必要とします。我々は、問診エンジンに対し、5万本におよぶ論文(症状と疾患の関係性に関するもの)を収集したデータベースを作成、学習させることで、主訴などの情報からAIが最適化された質問を自動で生成、聴取できる仕組みを実現しました。
 たとえば「お腹が痛い」という主訴があった場合、「痛みはどれくらい続いているか」「痛む箇所はどこか」「腰の痛みはあるか」など、患者の回答にあわせて20〜30の質問が生成されていきます。そして、患者の主訴をそのままデジタルデータとするのではなく、「生活に支障をきたす痛み」と回答した場合は、「NRS8/10程度」のように医療用語や文章に変換して記録します。さらに、問診への回答終了後は、患者の回答による「参考病名」を最大10まで表示(主訴「お腹が痛い」の場合、急性胆嚢炎、急性虫垂炎、ウイルス性胃腸炎など)する機能も備えています。
 ユビーAI問診のエンジンは、唯一無二の存在としてクラウド上にあり、現在でも導入先医療機関での医師の診断結果をデータベース化しています。つまり、随時最新のデータを反映させ、成長します。国内の主要な電子カルテシステムとの連携実績もあり、患者から聴取した問診データは、電子カルテ側からすぐに呼びだすことが可能です。
 これらユビーAI問診の機能は、外来診療における「問診に附帯する事務作業」の効率化を図り、医師の作業時間低減に寄与しています。

今後の展望

 ユビーAI問診は、全国1,700以上の医療機関で導入され、多くの医師や看護師等の業務の効率化をサポートしています。ユビーAI問診はクリニックだけでなく病院での導入も進んでおり、いずれの医療機関でも同じAIエンジンを使用しています。利用者である医師や看護師、そして患者にも特に意識させることなく、独自のデータベースをつくり上げています。
 そして現在は2020年4月に提供を開始した症状検索エンジン「ユビー」との連携を強化しています。このサービスは、患者以前の「生活者」が、自分のスマートフォンから症状に応じた参考病名や地域の医療機関を検索できるサービスです。

 このサービスも同じAIエンジンを使用しているため、この2つのサービスがシームレスに接続して相乗効果を生んでいます。具体的には、AI問診で地域のかかりつけ医のプライマリケアを支援しながら、地域住民にはユビーを通じて地域のかかりつけ医への受診を支援します。こうした関係性が地域全体に拡大すれば、もっと広い地域、いわゆる二次医療圏内の急性期病院とも、情報を共有していくことができます。我々のもつAI技術が、紹介・逆紹介という、病院とクリニックをむすぶ役割を担っていくこと、「地域医療連携」のハブとして機能することに期待しています。

 Withコロナ、そしてAfterコロナの世界でも、さまざまな理由により、適切な受診のタイミングを掴めずにいる生活者もいます。生活者には「医療をもっと身近なもの」にしていく、そして医療者には「より円滑な地域医療連携」を可能にすること、これが医療とAIとが共存する、一つの形になっていくのではないでしょうか。

    AI問診について詳しく知りたい方はこちら!

   

医療機関の経営に関するお困りごとは
お気軽にご相談ください。

お問い合わせ