コラム

医療機関が抱える赤字解決の第一歩:経営を圧迫する未収金にどう対応するか

公開日:2025/05/13

医療機関が抱える赤字解決の第一歩:経営を圧迫する未収金にどう対応するか

日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が行う「2024年度病院経営定期調査-中間報告(集計結果)-」によれば、2023年度の医業利益における赤字病院割合は74.7%、経常利益における赤字病院割合は64.9%でした。2024年診療報酬改定の影響や働き方改革による人件費増、さらに医療資材の高騰などを受け、今後も病院経営はさらに厳しさを増してくることが予想されます。

加えて昨今、医療費の未払いが問題視されています。病院経営の課題はさまざまですが、赤字を解消するための第一歩として未収金の回収および防止策の徹底が重要でしょう。本記事では、未払いの医療費回収のフローのほか、債権回収業者の利用や最終的手段としての訴訟の種類、そもそも未払いを発生させない方法など、医療機関が抱える赤字を少しでも解決するための未収金対策について解説します。

医療機関における未収金問題

厚生労働省が発表した「令和3年度 医療施設経営安定化推進事業病院経営管理指標及び医療施設における未収金の実態に関する調査研究」によると、令和3年10月および11月における1病院あたりの未収金額(患者負担の窓口未収金)はそれぞれ102万7000円、119万9000円でした。また1病院あたりの未収金発生実患者数はそれぞれ52人、59人だったと報告されています。

たとえば月額100万円の未収金が1年続いた場合、年間で1千万円の損害を被ることになり、経営への圧迫が懸念されます。そのため、未収金問題を解決することは経営安定化に向けた第一歩だといえるでしょう。

未収金が発生した際の対処法

医療費の未払い、つまり未収金が発生した場合は、すみやかに対処して回収することを目指します。未収金が発生した場合は、基本的に以下の流れで対処しましょう。

未収金の発生理由を明確にし、窓口で交渉する

まずは、なぜ未収金が発生しているのかを確認し、窓口で本人(または同伴者)と交渉しましょう。具体的に実施したい項目は以下のとおりです。

  • 住所・氏名・電話番号などを確認する
  • 預り金を徴収する
  • 未納額を告知する
  • 次回診療までの清算を依頼する
  • 支払い可能な予定日を確認する
  • 支払誓約書を記入してもらう
  • 公的救済制度などを案内する

支払い催促をする

相手に支払う意向が見られない場合、まずは口頭で支払いの催促をします。一例として「明日までに支払いをお願いしたい」と告げ、それが無理な場合はいつまでに支払えるのかを確認するなど、支払い期限を確認することが重要です。

それでも支払いがない場合は、電話や文書による催促や患者宅への訪問を行います。また、第三者である債権回収業者(サービサー)などを利用するのも効果的です。

債権回収業者とは、借金や未払い料金などを債権者(この場合は医療機関)の代わりに取り立てる専門業者のこと。診療報酬はサービサー法に定める「特定金銭債権」に該当しないため債権譲渡はできませんが、回収業務を委託することは可能です。

内容証明で催告状を送付する

上記の催促をしても対応してくれない場合は、内容証明で催告状(金銭の支払いを要求する書類)を送付してください。

内容証明とは、郵便法で規定される内容証明制度を利用した郵便物です。配達証明付きの内容証明郵便で催告書を送付することで、相手が受け取ったという事実を受取日とともに記録に残すことができ、問題の早期解決が期待できます。

会計処理と一部負担金の処分請求をする

未収金が回収できないことが明確になった場合、会計処理と一部負担金の処分請求をする必要があります。売掛金(治療費の一部負担や保険給付対象外の未収金)や債権者の損失を含む損失を損金処理として計算します。また、支払いがされない医療保険診療報酬一部負担金の未収金については、患者に対する一部負担金の処分請求を行います。

なお、診療報酬は令和2年3月診療分までは3年間、令和2年4月診療分からは原則5年間で時効消滅するため、期間内に未収金を回収することが求められます。

最終手段として訴訟を検討する

回収できなかった未収金については、訴訟などの手段を検討することになります。

  • 小額訴訟:
    60万円以下の未収金を解決するための手段。少額訴訟制度では、通常の訴訟と異なる簡易・迅速な解決を図るための特別な手続きが用意されている
  • 支払督促:
    60万円を超える未収金を解決するための手段。債権者の申立てにより、裁判所が債務者に対して支払いを命じる文書を送付する
  • 民事調停:
    未収金問題の当事者に加え、裁判官や民間から選ばれた調停委員が話し合いに参加し、解決を図る
  • 民事訴訟:
    裁判官の前で当事者同士の主張を行い、判決が確定すれば、未収金回収を強制執行できる

加えて、勝訴判決などを得たにもかかわらず相手が支払わない場合、相手方の財産を差し押さえて債権を回収する「強制執行」という手段もあります。

医療機関における未収金問題の防止策

未収金問題によって赤字やトラブルが起きることを防ぐために、医療機関にできることはあるのでしょうか。事前の防止・抑制策として、以下のような対策が考えられます。

  • 清算方法を増やす
    クレジットカードやデビットカード、自動精算機やコンビニによる支払いなど、患者が清算できる手段を増やす
  • 保険証の確認
    定期通院の患者に対しては、毎月初めに必ず保険証を確認し、チェックした日付を記録しておく
  • 預り金や前金(保証金)を徴収する
    預り金制度を採用し、事前に保証金を預かっておく
  • 診療前(外来)過去未納金清算を義務化する
    過去の未納金がある場合、診療前に清算させることを義務付ける
  • 入院時に誓約書を書いてもらう
    入院時には、支払いに関する事項や連帯保証人の情報を含む内容を誓約書に書いてもらう
  • 公的救済制度を活用する
    支払い能力を持たない患者に対しては、自賠責保険や任意保険、労災や国保の減免措置などの情報を提供する
  • 退院時における全額清算を義務化する
    入院中の費用は、退院時に全額清算することを原則とする
  • 未収金対策に関する研修の実施
    未収金に対する関心を高めるための教育訓練を定期的に実施する

医療費の未払いを防止して安定経営の一助に

医療費の未払いは、病院経営を圧迫する大きな要因の1つです。未収金問題に対しては、発生後の迅速な対応と回収努力はもちろん、事前の防止策を講じることが重要です。支払い方法の多様化や保険証確認の徹底、誓約書の活用など、さまざまな対策を組み合わせることで、未収金の発生リスクを軽減できます。

これらの取り組みは、単に未払いを防ぐだけでなく、患者との信頼関係構築にもつながります。未収金対策を通じて長期的な病院経営の安定化を図り、健全な経営を実現させましょう。

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