コラム
他院はどう活用している?病院経営における補助金・助成金の賢い活かし方
公開日:2025/12/19
「8割以上の病院が赤字」という昨今の報道が示す通り、多くの病院が厳しい経営環境に置かれています。追い打ちをかけるような物価高騰や人件費の上昇は、日々の経営をさらに圧迫しているのではないでしょうか。次の一手を打ちたいと考えても、その原資の確保に頭を悩ませている事務長や経営企画担当者の方も多いと拝察します。
このような厳しい状況を打開するため、国や自治体は病院経営を支援するための様々な補助金・助成金を用意しています。これらの制度は、未来への投資を可能にする強力な追い風となり得ます。ただし、その情報は多岐にわたり、自院の課題に最適な制度を見つけ出し、円滑に推進することは容易ではありません。
本記事では、令和7年度(2025年度)に病院が活用できる主要な補助金・助成金制度を目的別に整理し、多忙な担当者様が申請を成功させるための具体的なポイントを、事例を交えて詳しく解説します。使える制度を見逃すことなく、確実な経営改善に繋げていきましょう。
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多くの病院が直面する厳しい経営状況
多くの病院経営者が肌で感じている経営の圧迫感は、決して個別の問題ではなく、日本の医療業界全体が直面する構造的な課題の表れです。まずは、その現状を客観的なデータで確認し、なぜ今、補助金の戦略的な活用が不可欠なのかを深く掘り下げます。
データで見る病院経営のリアル
近年、多くのメディアで報じられている通り、病院経営は極めて厳しい状況にあります。その客観的な根拠となる「令和6年病院経営実態調査」では、医業利益が赤字の病院が全体の8割を超えるという結果が示されました。
この深刻な赤字構造の背景には、医薬品や医療材料費、そして光熱費といった物価の高騰が直接的な要因として存在します。加えて、医療従事者の処遇改善や人材確保競争の激化に伴う人件費の上昇も避けられません。このように支出が増加し続ける一方で、診療報酬は必ずしもそれに完全には連動しないため、収益と費用のバランスが崩れ、利益を圧迫していることに多くの病院が直面しています。
この深刻な赤字構造の背景には、複数の要因が複合的に絡み合っています。
まず、医薬品費や光熱費といった物価の高騰、医療従事者の処遇改善に伴う人件費の上昇といった、恒常的なコスト増が経営を圧迫しています。
それに加え、コロナ禍後の特有の要因が追い打ちをかけています。一つは、コロナ禍中に受けた実質無利子・無担保融資(いわゆる「コロナ融資」)の返済が本格化し、キャッシュフローを圧迫している点。もう一つは、コロナ禍中に支給されていた病床確保料などの手厚い補助金が終了し、収益がコロナ前の水準、あるいはそれ以下に戻ってしまった点です。
このように、支出は増加し続ける一方で、診療報酬は必ずしもそれに連動せず、さらにコロナ関連の支援もなくなったことで収支のギャップが急拡大し、多くの病院が直面する深刻な利益圧迫に繋がっているのです。
経営改善の切り札としての補助金・助成金
このような厳しい状況だからこそ、経営改善の「切り札」として真剣に検討すべきなのが、国や自治体が提供する補助金・助成金です。金融機関からの融資とは異なり、原則として返済が不要な資金であるため、病院の財務状況を悪化させることなく、未来に向けた価値ある投資の原資とすることができます。
例えば、老朽化した医療機器の更新、業務効率を劇的に改善するデジタル化の推進、あるいは優秀な人材を確保・定着させるための職場環境改善など、これまでコストを理由に後回しにせざるを得なかった課題解決への大きな一歩を、補助金を活用することで踏み出せる可能性があるのです。

【目的別】今すぐ使える!病院向け主要な補助金・助成金
補助金・助成金は、厚生労働省、各自治体などから多岐にわたる制度が公募されており、全体像を把握するのは困難です。そこで、自院の経営課題という「目的」から関連する制度を探すのが、最も効率的で確実なアプローチです。ここでは、病院が抱える代表的な課題別に、どのような種類の支援制度が存在するのかを具体的にご紹介します。
高額な医療機器の導入やDX化、省エネ設備への更新といった「設備投資」などを支援するものが中心です 。公募期間が比較的短く 、提出した事業計画書が厳格に「審査」され、その中から採択される必要があるため、難易度が高く確実にもらえるとは限らないのが特徴です 。
一方、助成金は、国や自治体が定めた条件や取り組みを実施すれば「受け取ることができる支援」で、一定の基準を満たすことで比較的受給しやすい制度となっています。
「補助金」と「助成金」の違い
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項目 |
補助金 |
助成金 |
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目的 |
国や自治体が |
主に「雇用」や「人材育成」などを支援する |
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競争性 |
審査あり |
条件を満たせば基本もらえる |
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例 |
ものづくり補助金 |
雇用調整助成金 |
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タイミング |
先にお金を使って、あとから交付される |
条件を満たせば申請後に支給される |
物価・エネルギー価格高騰への対策
昨今の電気代やガス代、さまざまな医療用消耗品費の上昇は、病院経営に直接的な打撃を与えています。こうした状況に対応するため、国や多くの自治体では、光熱費の一部を補填したり、省エネルギー設備への更新を支援したりする補助金制度が用意されています。代表的なものに、高効率な空調設備や業務用給湯器への更新を支援する「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」などがあります 。特に、都道府県や市区町村が独自に実施している支援金は、国の制度よりも申請要件が緩和されている場合があり、地域の実情に合わせて活用しやすい可能性があります。まずは自院が所在する自治体のホームページや広報誌などを定期的に確認することが重要です。
医療DX・デジタル化の推進
業務効率化を実現する上で、DX・デジタル化は避けては通れないテーマと言えるでしょう。これに応えるため、電子カルテの導入や更新、各部門システムとの連携、さらにはオンライン資格確認システムの整備といったIT投資を支援する補助金が複数存在します。中でも「IT導入補助金」は、事前に登録されたITベンダーと共同で申請する形式で、ソフトウェアだけでなく、関連するパソコンやタブレット端末の購入費用も対象となる場合があり、多くの医療機関で活用されています 。院内のペーパーレス化や情報共有の円滑化といった課題を抱えている場合に、まず検討すべき制度です。
人材開発
医療の質は、最終的に「人」によって支えられています。医師や看護師はもちろん、技師、医療事務、その他のメディカルスタッフに至るまで、優秀な人材の確保、育成、そして定着は、病院経営の最重要課題です。これに応えるため、厚生労働省を中心に、職員のスキルアップやキャリア形成を支援する制度が充実しています。例えば、非正規雇用の職員を正社員に転換したり、処遇を改善したりした場合に支給される「キャリアアップ助成金」や、従業員の能力開発のための研修費用を助成する制度などがあります。職員のエンゲージメントを高め、長く働き続けてもらうための職場環境整備に、これらの助成金を有効活用することができます。
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補助金・助成金を活用した事例
ここでは、実際に補助金・助成金を活用して、具体的な経営課題の解決に成功した病院の事例を4つご紹介します。これらの事例は、自院の取組を考える上での具体的なヒントとなるはずです。
活用事例① 働き方改革推進支援助成金
- 背景・課題
ある診療所では、院長が自作した電子カルテを使用していましたが、レセプト(診療報酬明細書)システムと連携していませんでした。そのため、診察が終わるたびに、事務スタッフがカルテの内容をレセプトシステムに再度手入力するという二度手間が発生し、業務負担と残業が発生する原因となっていました 。 - 取組
この課題を解決するため、働き方改革推進支援助成金を活用し、レセプトコンピュータと一体型の最新の電子カルテシステムを導入しました 。これにより、診察時の入力内容が直接レセプトデータに反映されるようになり、外部の検査会社から送られてくるデータも同じシステム上で一元的に管理できるようになりました 。 - 成果
結果として、受付でのレセプト作成時間が患者1人あたり約30%も削減されました 。さらに、過去の診療データを時系列で一覧表示できるようになったことで、患者への説明や治療方針の決定における利便性も大きく向上しました 。
参考:働き方改革推進支援助成金
活用事例② 業務改善助成金①
- 背景・課題
ある眼科では、多くの患者に行う遠視・近視・乱視などの屈折度数を測定するレフラクトメーターという検査機器が不足していました。これにより、患者の待ち時間が長くなり、検査全体の流れが滞ることで、結果的に1日に診察できる患者数が制限されていました 。 - 取組
賃上げを要件とする業務改善助成金を活用し、新たに高性能なレフラクトメーターを導入しました。これにより検査のボトルネックが解消され、後続の検査へスムーズに移行できるようになったほか、新たに角膜形状解析といった高度な検査も院内で完結できるようになりました。 - 成果
検査全体の効率化により、1日あたり約1時間の業務時間短縮を実現。さらに、1日に診察可能な患者数が最大1.5倍に増加し、病院全体の売上高も7%向上するという、明確な経営改善効果が得られました。
参考:業務改善助成金
活用事例③ 業務改善助成金②
- 背景・課題
院内が広く、清掃や検体・薬剤の搬送といった付帯業務がスタッフの大きな負担となっていました。特に夜間など人員が手薄になる時間帯は、看護師が本来のケア業務以外の作業に時間を取られることが問題視されていました。また、外部への清掃委託費も経営上のコストとして無視できない額になっていました。 - 取組
業務改善助成金を活用して、院内を自律走行する最新の掃除ロボットと搬送ロボットを導入しました。これにより、廊下や待合室といった共用部の定型的な清掃や、部署間の検体・薬剤の搬送業務をロボットに代替させました。 - 成果
清掃や搬送にかかっていた人的コストを大幅に削減することに成功。これにより創出された時間を、より専門性が求められる患者ケアなどの業務に再配置することが可能となり、院内全体の業務効率化と人件費の最適化を実現しました。
参考:業務改善助成金
活用事例④ 省エネ補助金
- 背景・課題
ある病院(従業員数約200人程度、病床数約100床程)では、長年使用していた重油ボイラーが法定耐用年数を超え、更新に高額な費用がかかることが判明。また、設備のオーバースペックによる過剰なランニングコストも経営を圧迫していました。 - 取組
省エネ補助金を活用し、従来のボイラーから高効率な業務用のガス給湯器へと全面的に更新しました。これにより、燃料を重油から都市ガスへ転換し、より環境負荷が低く、安定した温水供給システムを構築しました。 - 成果
年間で111万円ものランニングコスト削減を達成したほか、CO2排出量も年間30.0t削減することに成功しました。さらに、これまで人手で行っていた重油の給油作業や、地震発生後の煩雑な復旧操作も不要となり、職員の負担軽減にも繋がりました。
参考:省エネ補助金
補助金を活用し、未来に向けた戦略的な一手を打つ
本記事では、多くの病院が直面する厳しい経営状況を背景に、令和7年度に活用できる補助金・助成金の探し方や、実際の活用事例について、具体的なポイントを交えて解説しました。
物価高騰や人材不足など、病院経営を取り巻く外部環境は、今後も楽観視できるものではありません。しかし、国や自治体が提供する補助金・助成金というセーフティーネットを賢く活用することで、コストの壁を乗り越え、未来に向けた戦略的な一手 を打つことが可能です。
まずは自院の課題を改めて整理し、それを解決できる支援制度がないか情報収集を始めること。そして、必要であれば専門家の力も借りながら、この機会を確実な経営改善、そしてより良い医療の提供へと繋げていきましょう。
補助金活用で課題解決
慢性的な人手不足や働き方改革、医療DX化への課題を早期解決
